今回は、そのお隣にありながら、全く違う運命を歩んできた色、「バイオレット(菫色)」の物語です。
実はこの2色には、科学的にも歴史的にも、驚くほどの「差」があるのです。
まず最初に、バイオレットは虹の中に実在しますが、パープルは存在しません。
「え?」と思われるかもしれませんね。
バイオレットは、太陽の光がプリズムを通ったときに現れる、波長が最も短い「本物の光」です。
一方のパープルは、脳が「赤」と「青」を混ぜて作り出した、いわば「想像上の色」なんです。
私たちは、同じ『紫』として、その意味をとらえていますが、そんな大きな違いがあるんです。
17世紀、科学者アイザック・ニュートンがプリズムを使った実験で、太陽光を7色(虹の色)に分けた際、波長の最も短い端の色を「バイオレット」と命名しました。
バイオレットという色名が、歴史上、決定的に「パープル」と切り離されたのは、この時からといえるでしょう。
バイオレットは「花の名前」から「物理学的な光の色」という科学的な定義を与えられたのです。
「バイオレット」という名前が文献に登場するのは14世紀後半、中世のイギリス。
シーザーが法律で「パープル」を独占した時代から1000年以上経ってからのことです。
スミレの花は、ラテン語で植物の総称「Viola(ビオラ)」から、ヴィオラと名付けられました。
中世の詩人たちは、野に咲くスミレの可憐な姿から、その青みの紫の花色を「バイオレット」と呼び始めました。
権力者のための色名ではなく、詩人や芸術家たちの手によって、この色は名前を与えられたのです。
パープルが「支配」を象徴するなら、バイオレットは「謙虚さ」や「愛」を象徴する、民衆に近い色といえます。
歴史的なエピソードとして、バイオレット(スミレ)を愛したのがナポレオンです。
彼が流刑地に送られた際、復活を信じる支持者たちは、スミレの花を「秘密の暗号」にしました。
「スミレが咲く頃、彼は帰ってくる」。
街角でスミレ色の小物を身につけている人を見かけたら、それは「私はナポレオンを支持している」という無言のメッセージ。
パープルが「見せびらかすための色」だったのに対し、バイオレットは「心を通わせるための色」だったのです。
19世紀、芸術の世界でもバイオレットは革命を起こしました。
画家クロード・モネは、影を黒ではなくバイオレットで描きました。
「空気には色がある、それはバイオレットだ」と彼は語りました。
それまで、影はただの暗闇(黒)でしたが、モネによってバイオレットの光が吹き込まれ、世界はより鮮やかに、神秘的に見えるようになったのです。
力強く、圧倒的なカリスマ性を持つ「パープル」。
繊細で、知性と神秘を感じさせる「バイオレット」。
どちらが良い、ということではありません。
皇帝のような情熱が必要な日もあれば、ナポレオンの支持者たちのように、ひっそりとスミレの花に想いを託す日もあるでしょう。
紫色が好き、とおっしゃる方は、とても多いです。
あなたが気になるのは、貝から生まれた王の色でしょうか?
それとも、虹の端っこに咲くスミレの色なのでしょうか?