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大地の恵みとワインの記憶「ローシェンナ」

2026/04/16

大地の恵みとワインの記憶

ローシェンナ


ローシェンナ(Raw Sienna)というのは、地味ながらもどこか温かみを感じさせる黄褐色です。

一見すると「ただの土の色」に見えるこの色。

実は、世界で最も美しいと言われるイタリアの風景と、美味しいワインに深いつながりがあるんです。



「生の土」という名前の由来



「シェンナ」とは、イタリア・トスカーナ地方の古都「シエナ(Siena)」を指します。

中世の面影を色濃く残す、レンガ色の屋根が連なる美しい街です。

そして「ロー(Raw)」は「生の・原料のままの」という意味。

つまり、ローシェンナとは「シエナの地から掘り出されたままの、天然の土の色」を指しています。

化学合成が進んだ現代でも、この色は「酸化鉄」と「マンガン」を絶妙な比率で含んだ天然の土壌から作られています。

まさに「大地のカプセル」とも言える色なのです。




トスカーナのワインと「同じ母」を持つ色



イタリア・トスカーナ地方といえば、世界中のワイン愛好家が憧れる「キャンティ・ワイン」の産地として有名です。

実は、この美味しいワインとローシェンナの間には、切っても切れない「地質学的な血縁関係」があります。

ワインの味を決定づけるのは、その土地の土壌や気候を表す「テロワール」という概念です。

トスカーナの緩やかな丘陵地帯は、鉄分を豊富に含んだ粘土質の土壌が広がっています。

この鉄分こそが、ブドウの木にミネラルを与えて芳醇なワインを育むと同時に、ローシェンナという顔料に「黄金色の輝き」を与えているのです。

トスカーナの太陽を浴びて育つブドウと、その足元に眠るシエナの土。

この二つは、同じ大地の栄養を分け合った兄弟のような存在と言えるかもしれません。





巨匠たちが「この色」を必要とした理由



ローシェンナが産業、そして芸術の世界で不動の地位を築いたのは、14世紀から16世紀にかけてのイタリア・ルネサンス期です。

当時の芸術家たち、レオナルド・ダ・ヴィンチやミケランジェロにとって、ローシェンナは「魔法の色」でした。

なぜなら、この色には他の土壌顔料にはない「高い透明感」があり、他の色と混ぜた時に自然な印影を作り出すことができたのです。

 白い顔料に少しだけローシェンナを混ぜることで、血色の通った、透き通るような人間の肌を表現することができました。

ルネサンス期の画家たちは、夕日に照らされた建物の陰影や、動物の毛並みの質感をリアルにを表現するために、この色を何層も塗り重ねる「グレーズ法」に欠かせない色として重宝しました。

ローシェンナは、天然の土から作られる究極のナチュラルカラーとして、ヨーロッパ中の芸術家たちがこぞって買い求める「最高級のインク」だったのです。




「生(ロー)」と「焼き(バーント)」の使い分け



ローシェンナを語る上で欠かせないのが、その相棒である「バーントシェンナ(Burnt Sienna)」の存在です。

掘り出したままの「ロー(生)」の状態では穏やかな黄褐色ですが、この土を窯でじっくりと焼き上げると、化学反応を起こして深い赤褐色へと変化します。

これが「バーント(焼いた)」シェンナです。

画家たちは、明るい部分に「ロー」を使い、深い影の部分に「バーント」を使うことで、画面の中に完璧な調和を生み出しました。

同じ土地から生まれた「生」と「焼き」の色を使い分けることで、風景や人物に命を吹き込んでいったのです。




現代の私たちは、ボタン一つで何万色もの色を再現できます。

けれど、ローシェンナのように、特定の土地の歴史や土壌、さらにはワインの文化とまで結びついた色はそう多くありません。

その色の深みの中には、イタリア・トスカーナの太陽と、何世紀にもわたって大地を守り続けてきた人々の誇りが溶け込んでいるといえるのではないでしょうか。

前回、テーマにした『シアン』が科学の偶然なら、『ローシェンナ』は大地の必然。

色は知れば知るほど、世界を多層的に見せてくれますね。



カラースクールT.A.A
フジタ でした