坑道の妖精「コボルト」が隠した青の魔力
銀山を彷徨う妖精「コボルト」の呪い
「コバルト」という言葉の語源は、ドイツの民話に登場する精霊や妖精「コボルト(Kobold)」にあります。
中世ドイツの、ハルツ山地などの鉱山で働く人々にとって、コボルトは恐ろしい存在でした。
銀を掘り当てようと汗を流す鉱夫たちの前に、銀によく似た、金属が現れることがありました。
だけど、これは精錬しても価値のない金属(コバルト鉱石)でした。
しかも、この鉱石は精錬の過程で有害なガス(ヒ素など)を出し、鉱夫たちの健康を損なうこともあったのです。
鉱夫たちは、
「これは山に住むいたずら者の妖精コボルトが、価値のある銀を盗み出し、代わりに偽物の金属を置いていったのだ」
と信じ、その厄介な鉱石を「コボルト(コバルト)」と呼ぶようになりました。

呪いから「至高の青」への転生
こうして厄介者として忌み嫌われていたコバルトでしたが、18世紀から19世紀にかけて変化が訪れます。
この鉱石から抽出された成分をアルミナ(酸化アルミニウム)と焼成することで、その運命が劇的に変わったのです。
この色は、それまでのどんな青よりも純度が高く、光に強く、そして鮮やかな青でした。
坑道の暗闇で人々を困らせていた妖精の名前が、芸術の世界で最も賞賛される「光り輝く青」の名前になった……。
ドラマチックな逆転劇ですね。
芸術家たちを虜にした透明感
この新しい青は、印象派の画家たちを熱狂させました。
ルノワールは「空の青」を描くためにこの色を多用し、モネは水辺の揺らぎを表現するためにこの青を走らせました。
コバルトブルーの最大の特徴は、その「透明感のある鮮やかさ」です。
重苦しさがなく、どこまでも突き抜けるようなその色彩は、まさに妖精が魔法をかけたかのような、不思議な魅力に満ちています。
かつては「銀を盗む呪い」と呼ばれた色が、今では「世界を彩る至宝」として私たちの目を楽しませてくれている。
その背景を知ると、この深い青が少しだけミステリアスに見えてきませんか?
